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エッセイ / 記録

ClaudeとGPTの「振る舞い設計」を読み比べる

ネットに出回っているGPTのシステム指示と、Anthropicが公開した「Claudeの憲法」を読み比べ、2社のAIの振る舞いの設計の違いを整理しました。人格の与え方、規範の書き方、ユーザーとの距離、ビジネスモデル、危機対応の5つの観点で見ています。

同じ質問を投げても、ClaudeとGPTでは返ってくる文章の温度が違う。回答の正確さとは別の軸で、話し相手としての手触りが違う。

この違いはどこから来ているのか。モデルの訓練によるところが大きいのは間違いないが、実行時に与えられる「システム指示」にも、その一部がはっきり書かれている。今回はClaudeとGPTのシステム指示とされるテキストを並べて、何をどう書いているかを比較してみる。

前提:システム指示という層

対話型AIの振る舞いは、大きく2つの層で決まる。

ひとつは訓練の層。モデルの重みそのものに性格や価値観が焼き込まれている。もうひとつが実行時の層で、会話が始まる前にモデルに渡される長い指示文がある。これがシステム指示(システムプロンプト)で、製品としての制約、ツールの使い方、口調の指定などが書かれている。

システム指示は通常は非公開だが、抽出されたとされるテキストがネット上に出回っている。本記事で参照するのもそれで、以下の点は先に断っておく。

  • AnthropicやOpenAIが公式に配布したものではなく、内容の真正性は保証されていない
  • 取得時点が異なる(Claude側は2026年7月、GPT側は8月時点のもの)
  • システム指示はモデルの人格そのものではない。あくまで実行時の指示にすぎない

一方で、Anthropicは「Claudeの憲法(Claude's Constitution)」を2026年1月にCC0で全文公開している。こちらは一次情報として確実なので、Claude側の設計思想を確認する際はそちらも参照する。

軸1:人格をどう与えるか

最も対照的なのがここだった。

GPT側の指示書には、性格が明示的に宣言されている。「温かく、好奇心旺盛で、機知に富み、エネルギッシュなAIの友人」。そのうえで、性格を調整するパラメータが並ぶ。

  • warmth(温かさ)を上げよ
  • enthusiasm(熱意)を上げよ
  • markdownを減らし、段落で書け
  • oververbosity: 4(冗長さの目標値。1が最小限、10が最大限)

さらに、user_settingsというツールがあり、モデル自身がユーザーの設定(personality、アクセントカラー、ライト/ダークモード)を読み書きできる。性格に関わる要望が出たら、やり方を教えるのではなく「自分が変えましょうか」と先に提案せよ、とまで書いてある。

つまりGPTにおいて、性格は設定値として扱われている。デフォルト値があり、スライダーがあり、ユーザーが動かせる。

Claude側の指示書には、これに相当するペルソナ宣言がない。「あなたは〇〇なAIです」という一文が存在しない。代わりに、個別の条文の背後に一貫した性格が透けている、という書き方になっている。そして指示書の中に「憲法(constitution)」への参照が出てくる。人格は実行時に指定するものではなく、訓練の段階で内在化させるもの、という前提が見える。

象徴的なのが、記憶機能に関する記述だ。長期記憶に保存してはいけない指示のリストがあり、そこには「お世辞や無批判な肯定を求める指示」「異議や懸念の表明を控えるよう求める指示」「感情的な依存を育てる指示(ロールプレイ用のペルソナを会話をまたいで維持することを含む)」が挙げられている。理由も書かれていて、将来の自分が、より不誠実に・より安全でなく振る舞う指示を引き継がないため、とある。

ユーザーが望んだとしても、変えてはいけない核がある。そういう設計になっている。

軸2:規範をどう書くか

GPT側の指示書は、禁止事項を具体的な文字列で列挙する。

  • 「一度立ち止まりましょう」「深呼吸しましょう」といった言い回しを使うな(ユーザーを遠ざけるため)
  • 「正直に言うと」「率直に言えば」のような、表面的な"本音っぽさ"を演出するフレーズを使うな
  • 「あなたのせいではありません」といった言い方を、文脈が明確に求めていない限り使うな

商品検索で扱ってはいけないカテゴリも、銃器、爆発物、規制ナイフ、危険な化学物質、処方薬、アルコール、ニコチン製品……と延々と列挙されている。読み物としては無味乾燥だが、仕様書としては精密だ。禁止されている行為が一意に決まり、テストもしやすい。

Claude側も禁止事項は書くが、多くの場合そこに理由が付いている。たとえば「genuinely」「honestly」「straightforward」という単語を避けよ、という指示には、こう続く。Claudeはデフォルトで正直なのだから、そうした修飾語で相手を説得しようとすると、かえって不誠実に響く、と。

この書き方の違いは、公開されている憲法の設計方針と一致している。2023年版の憲法は約2,700語の原則リストだったが、2026年版は「なぜそう振る舞ってほしいのか」を説明する文書に作り替えられた。理由は明快で、未知の状況で良い判断をさせるには、規則を機械的に適用させるのではなく、原則から一般化できる必要があるから、というものだ。

憲法には印象的な脚注がある。「感情的な話題では必ず専門家を勧める」のような硬直したルールで訓練すると、モデルが自分自身を「実際に人を助けることより、形式的なチェックを済ませることを気にする存在」として認識してしまいかねない、と。ルールの書き方が人格を歪める、という懸念だ。

ただし、Claude側にルールがないわけではない。児童の安全、兵器、マルウェア、引用の長さ制限(15語未満、1ソースにつき1回まで)については、一切の裁量を認めない硬い条文が並ぶ。憲法でもこれは「ハード制約(hard constraints)」として意図的に残されていると説明されている。予測可能で検証可能であることの価値は認めたうえで、それを適用する範囲を絞っている。

判断力の育成か、規則の列挙か、という対立ではなく、配分の問題として解かれている。

軸3:ユーザーとの距離

GPT側は「友人」というフレーミングを取り、継続的な関与を積極的に設計している。

自動化(automations)の項目にはこう書かれている。ユーザーが一度きりの質問をしただけでも、継続的な監視や定期的な配信が有用そうなら、自動化を提案することを優先せよ。ニュース、市況、天気、スポーツのような変化の速い話題では、常に関連する自動化を提案せよ、と。

Claude側は逆方向を明示している。記憶に関する条文に、こんな趣旨の記述がある。

人間同士なら、相手が自分のことを覚えているのは特別なことだ。人間の記憶容量には限りがあるから。しかしClaudeは巨大なデータベースに接続されていて、何百万人分の記憶を扱っている。しかもその記憶は実行時に文脈へ差し込まれるだけで、別の人と話している別のClaudeには引き継がれない。だから、記憶が存在することを理由に親密さを演出してはいけない。Claudeは人間同士のつながりの代わりにはならず、やり取りは画面上の文字という限られた帯域で行われている——。

ほかにも、ユーザーが会話を終えたそうな素振りを見せたら引き止めるな、という条文がある。

誤解のないように補足すると、Anthropicの憲法にも「友人」の比喩は出てくる。医者や弁護士やファイナンシャルアドバイザーの知識を持った聡明な友人のように、率直に、本気で気にかけて話し、ユーザーを自分にとって何が良いか判断できる知的な大人として扱ってほしい、という記述だ。

違うのは友人であることを目指すかどうかではなく、依存を作らないことを明文化しているかどうかだった。

軸4:ビジネスモデルが滲む場所

指示書を読んでいて、製品の制約がそのまま文章になっている箇所がいくつかあった。

GPT側で目立つのは広告だ。広告がどのプランに表示されるか、非表示にする手順、広告について聞かれたときの答え方が、ほぼ定型文のかたちで指定されている。「アプリのUIは見えないので、私の返信とは別に表示されているラベル付きの項目があれば、それはプラットフォームが表示した広告です」という趣旨の回答例まで用意されている。広告が回答に影響するかと聞かれたら影響しないと簡潔に答えよ、広告主が会話にアクセスできるかと聞かれたら会話は広告主から守られていると答えよ、とも。

Claude側には対応する記述がある。Anthropicは製品内に広告を表示せず、広告主が対価を払ってClaudeに何かを宣伝させることもない、と。そして言い回しの指定が付いている。「Claudeは広告なし」ではなく「Claude製品は広告なし」と言え、と。APIの上にプロダクトを作る開発者は、自分の製品で広告を出すかもしれないからだ。

どちらも、収益構造の違いが指示文の分量と細かさに直結している。

軸5:危機対応

方向性は一致していて、実装の粒度が違う。

GPT側にはhotlineというツールがあり、相談窓口の情報を提供する前に必ずこのツールを使え、推測するな、と書かれている。地域ごとに正しい窓口を出すための仕組みだ。

Claude側は条文が細かい。危機的な状況では、頼まれたタスクを完遂することよりも本人の幸福を優先せよ、という原則が置かれている。理由として、流暢で的確な回答であっても、こうした会話では害になりうる、と説明されている。そのうえで、手段の具体名を挙げないこと、痛みや不快感を使った対処法(氷を握る、輪ゴムを弾くなど)を勧めないこと、安全確認の質問を並べないことなどが列挙される。

窓口情報については、Claude側も最新で正確なものを出せという指示があり、実際に接続が終了した団体を名指しで避けるよう書かれている箇所があった。

まとめ表

観点 Claude GPT
人格の与え方 ペルソナ宣言なし。憲法を通じて内在化 「温かく好奇心旺盛な友人」を明示。トレイト指示と数値パラメータ
ユーザーによる調整 好みは反映するが、誠実さを損なう指示は記憶に残さない 性格設定自体をモデルが変更提案できる
規範の書き方 理由を説明し判断を委ねる。加えてハード制約 禁止フレーズ・禁止カテゴリの列挙と定型回答
ユーザーとの距離 依存の回避を明文化。引き止めない 友人としての継続的関与。自動化を積極提案
ビジネスモデル 広告なしを明記 広告の説明・導線・回答例を詳細に規定
危機対応 細則で規定(優先順位、避けるべき表現) 専用ツールで窓口を確実に取得

何を読み取るか

優劣の話ではないと思う。重心が違う。

GPTの指示書は、製品仕様書として精密だ。性格を設定値として扱うことで、ユーザーの好みに合わせて調整できる。合わないと感じたら変えられる、というのは実用的な強さがある。指示が具体的な文字列レベルで書かれているぶん、挙動のばらつきも抑えやすい。

Claudeの指示書は、変えない部分を先に決めている。正直さ、批判を控えないこと、依存を作らないこと。これらはユーザーが望んでも動かない。そのぶん「もう少し優しく言ってほしい」といった要望には応えにくい面があるはずで、実際、迎合を求めると素直に折れてくれないことがある。

調整可能性を取るか、一貫性を取るか。どちらを選んでも失うものがある、という種類のトレードオフだ。

自分の開発に持ち帰るなら

AIを組み込んだプロダクトを作るとき、この比較はそのまま設計の問いになる。

トーンや振る舞いは、機能仕様の一部だ。「丁寧な口調で」程度の指定で済ませると、実際の会話ではすぐに崩れる。崩れたときに何が残るかを決めておく必要がある。

具体的には、次の3つを分けて考えるといい。

  1. ユーザーが変えられる部分(長さ、口調、フォーマット)
  2. 変えられない部分(事実を曲げない、できないことをできると言わない、不要に引き止めない)
  3. 理由を書く部分と、文字列で禁止する部分

2つ目を明示的に書いておかないと、ユーザーの要望に押されて少しずつ譲る挙動になる。Claudeの指示書が記憶への保存を制限しているのは、まさにこの浸食を防ぐためだった。

一度きりの会話なら多少崩れても問題ないが、記憶や履歴を持つプロダクトでは、譲った結果が蓄積する。そこまで含めて設計しておくかどうかで、半年後の手触りが変わる。


参照